基本認識

 ラムサール条約は、正式名称を「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約 (The Convention on Wetlands of International Importance Especially as Waterfowl Habitat)」といい、水鳥の生息地である湿地をはじめとして、湿地生態系全般を保全することを目的としています。            
 湿地の生態系は、当然のこととして、じめじめした環境にあり、不快生物が存在することもあって、どちらかというと嫌われてきました。
 他方、この生態系はきわめて肥沃であるため、人間の発展とともに、干拓され、耕地として、また居住地として、その他さまざまな用途に利用されてきました。そして、そのような干拓事業は、先人の偉業として輝かしくたたえられました。

 このようにマイナスのイメージが強い湿地は、じつは生命力の宝庫なのです。このことを再評価し、その生態系を積極的に保全しようとしている点に、ラムサール条約の最大の特色があります。

  1. 水鳥、渡り鳥が人間に保護管理される必要はなく、そのライフサイクル全体および関連する生物種および生態系を視野に入れて、その種の存続のための生態条件を人間が破壊しないよう、人間の活動を規制しなければならないこと。
  2. 湿地と人間の関わりを排除するのではなく、人間も生態系の一員であるという認識のもとに、他の生物といっしょに湿地生態系を活用しなければならないこと。
  3. 珍しいとか美しいとかの、人間の観点からの価値だけではなく、鳥や昆虫など、あらゆる生命体にとっての価値を評価しなければならないこと。
  4. 渡り鳥の問題はきわめて国際的であるが、その生息地の保全は、きわめて地域的な行動であること。

 以上のことは、最近の地球環境問題への関心が高まるなかで、自然保護関係者の間に、ようやく広まりつつある認識です。
 ラムサール条約は、1971年、それらの認識を基本精神として成立しました。その先見性は高く評価されるべきであるとともに、現在にいたっていっそう、条約精神の実現が重要な課題であることに注目すべきです。
 生物学的多様性の確保にとって、また地球の生命維持機能の確保にとって、決定的要素である湿地生態系の保全のために、積極的行動が必要とされています。